睡眠が足りないと、男性ホルモンや精子に影響する可能性があります。 ただ、「6時間を切ったら精子が減る」「早く寝れば妊娠できる」と言い切れるほど、研究は単純ではありません。実験で確かめたことと、人を追跡して見つかった関連を分けて読むと、自分の生活に生かしやすくなります。

  1. 01ホルモン採血でテストステロンを測る
  2. 02精液所見精子数・運動率などを測る
  3. 03妊娠カップルの妊娠までを追う

まず答え:睡眠不足と男性の生殖には関連がある

睡眠を短くした実験では、若い男性のテストステロンが低くなりました。また、短い睡眠や眠りの質の悪さと、精液検査の数値が低いことを結びつける観察研究もあります。妊娠を希望するカップルを追跡した研究でも、男性の睡眠が6時間未満の場合、妊娠に至る割合が低いという結果が出ています。

ただし、この三つは同じ研究で「睡眠不足→ホルモン低下→精子減少→妊娠率低下」と証明されたわけではありません。それぞれ対象者も測り方も違います。ここを分けておくと、数字を必要以上に怖がらずに済みます。

5時間睡眠の実験で、テストステロンはどう変わった?

米国の小さな実験では、健康な若い男性10人が、まず十分に眠れる条件で過ごし、その後、8晩続けてベッドに入れる時間を5時間に制限されました。実際の睡眠時間は約8時間55分から約4時間48分へ短くなり、日中に測ったテストステロンは約10〜15%低下しました。[1]

研究データ

10人参加した健康な若い男性
8晩5時間の就床を続けた期間
10〜15%日中のテストステロン低下

これは「睡眠を削るとホルモンが変わり得る」と考える根拠になります。一方で、参加者は10人、期間は約1週間です。精子や妊娠は調べておらず、すべての年齢の男性で同じ割合だけ下がるとも、一晩眠れなかっただけで不妊になるとも言えません。研究では午後の低下が目立ちましたが、自分の検査値をこの数字から計算することもできません。

精子の数や運動率は?

精子提供の候補だった健康な男性842人を調べた研究では、計5,601回の精液検査を解析しました。夜の睡眠が6時間未満だった人は、7.5〜8時間だった人より、総運動率と前進運動率が低い傾向にありました。眠りの質が悪いと答えた人にも、精子数や運動率が低い傾向が見られています。[2]

「総運動率」は動いている精子の割合、「前進運動率」は前へ進む精子の割合です。似た言葉でも、検査票では別の項目です。この研究では同じ人が複数回検査を受けており、運動率は個人の中でもばらつきました。一度の精液検査だけで、睡眠が原因だと決めることはできません。

また、この研究は睡眠時間を研究者が割り付けて比べた実験ではありません。体調、仕事、ストレスなどが睡眠と精液所見の両方に関わる可能性があります。睡眠を整えれば必ず数値が上がる、と読むのも早計です。ストレスと男性ホルモン・精子の研究でも、この違いを整理しています。

妊娠しやすさまで分かっている?

北米で妊娠を希望する1,176組を追跡した研究では、男性が1晩8時間眠る場合と比べ、6時間未満と答えた組の「1周期あたりの妊娠しやすさ」は低く、調整後の比は0.62でした。[3]

この研究は精液検査やテストステロンを同時に測っていません。したがって、なぜ差が出たかまでは分かりません。睡眠を妊活の一要素として考える理由にはなりますが、治療の代わりになる証拠ではありません。

何時間眠ればいい?「6時間」を目標にしない

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人では6時間以上を目安に、本人に必要な睡眠時間を確保するよう勧めています。同時に、起きたときに休めたと感じるかも大切にしています。これは健康全般の目安で、6時間眠れば精子や妊娠への影響が消えるという基準ではありません。[4]

普段5時間ほどしか眠れず、朝からつらいなら、まず睡眠に使える時間を増やすことから始められます。例えば、起きる時刻を大きく変えず、夜の作業を30分早く切り上げる。数日で精液検査の数値を追うより、続けられる生活か、日中の眠気や起床時の感覚がどう変わるかを見ます。

寝床に長くいても眠れない人は、時間を増やすだけでは解決しないことがあります。厚労省のガイドも、睡眠時間だけでなく、生活習慣、寝室の環境、睡眠を妨げる病気に目を向けています。

妊活中に、今できること

  1. まず1〜2週間、眠る時間を確かめる。 布団に入った時刻だけでなく、起きた時刻、夜中に何度も目が覚めたか、朝に休めた感じがあるかを簡単に記録します。
  2. 睡眠時間を削る原因を一つ選んで減らす。 就寝直前までの仕事、夜遅いカフェイン、寝室の明るさなど、変えられるものから手をつけます。全部を一度に変える必要はありません。
  3. 気になる結果があれば、睡眠だけで説明しない。 精液検査の異常や妊娠についての心配は、検査条件やほかの健康状態も含めて医療機関で相談します。熱への曝露も気になる人は、ノートPC・サウナと精子形成の記事が参考になります。

大きないびき、呼吸が止まると言われる、十分な時間を確保しても強い眠気が続く場合は、睡眠時無呼吸などを含めて相談してください。妊活のためだけでなく、睡眠そのものを評価する理由があります。

体重や運動も気になる人は、体重・活動量と精子の研究を確認できます。生活習慣は一つだけで妊娠の結果を決めるものではありません。

よくある質問

週末に寝だめすれば平日の不足を帳消しにできますか?

このページで紹介した研究からは、週末の寝だめでホルモンや精液所見が元に戻るとは判断できません。まず平日の睡眠時間を確保できるか考えるほうが現実的です。

テストステロンが下がったら、精子も必ず減りますか?

必ずではありません。5時間睡眠の実験はテストステロンを測りましたが、精子は測っていません。精液検査との関連を見た別の研究でも、睡眠からホルモン、精子へと続く経路を証明したわけではありません。

夜勤なら妊娠できないのでしょうか?

そうは言えません。勤務時間が不規則でも、個人の妊娠の可能性をこの記事の数字から判定することはできません。睡眠に使える時間と休養感を確認し、心配があれば勤務状況も含めて医療機関で相談してください。

メラトニンを飲めば精子にいいですか?

ここで紹介した研究は、メラトニンのサプリで妊娠率が上がることを示していません。睡眠と体内時計の関係を、そのままサプリの効果に置き換えないでください。

出典参考資料・文献

本文で参照した資料です。リンクは新しいタブで開きます。

  1. 01Leproult・Van Cauter(2011):睡眠制限とテストステロン(原著PDF)
  2. 02Chen ほか(2020):睡眠時間・睡眠の質と精液所見(原著要旨)
  3. 03Wise ほか(2018):男性の睡眠時間と妊娠までの時間(原著)
  4. 04厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド2023