結論からいうと、熱が精子形成に影響しうることは分かっています。しかし、ノートPCを膝に置いたり、たまにサウナへ行ったりするだけで「妊娠できなくなる」とは言えません。 研究ごとに測ったものが違うためです。陰嚢の温度、精液検査の数値、実際の妊娠を分けて見ていきましょう。

  1. 01陰嚢の皮膚温その場で測れる変化
  2. 02精液の指標精子数・運動率など
  3. 03妊娠までの時間カップルとしての結果

精子形成と温度の基本

精巣は体の中心部より低い温度に保たれています。精子は精巣内で段階を経て作られるため、熱への曝露が続くと精子形成に影響する可能性があります。ただし、陰嚢の皮膚温を測った結果を、そのまま精巣内の温度や妊娠率に置き換えることはできません。

どのくらいの時間軸で考えるべきでしょうか。健康な男性11人を対象にした標識実験では、新しく作られた精子が射出精液中に現れるまで平均64日、個人差は42〜76日でした。今日の行動が翌日の精液検査にそのまま反映される、という単純な仕組みではありません。原著研究を読む(Misell ほか、2006)↗

Hjollund ほか(2002)の観察研究では、陰嚢の皮膚温が高い男性ほど精子濃度が低い傾向がありました。ただし、これは関連を示す結果です。皮膚温の高さが唯一の原因だったと証明したわけではありません。

ノートPC:上がったのは「皮膚温」

研究データ

29人健康な男性
60分膝上で使用
2.6〜2.8℃陰嚢皮膚温の上昇

2005年の実験では、29人が脚を寄せて座り、動作中のノートPCを膝に置いたとき、60分後の陰嚢皮膚温は右で2.8℃、左で2.6℃上がりました。同じ姿勢でPCを置かなくても約2.1℃上昇しました。機器の熱だけでなく、脚を閉じた姿勢も関わっていると考えられます。原著研究を読む(Sheynkin ほか、2005)↗

続く実験では、膝上パッドを挟んでも温度上昇はなくなりませんでした。脚を開いた姿勢では上昇幅が小さくなりましたが、ゼロではありません。これは「パッドを使えば完全に防げる」とは言えない、という結果です。原著研究を読む(Sheynkin ほか、2011)↗

サウナ:小規模研究で精液の指標が変化

2013年の研究では、精液所見が正常な男性10人が、80〜90℃のサウナに15分間、週2回、3か月入りました。その後、精子数と運動率が低下し、精子の構造や機能に関する指標にも変化が見られました。サウナをやめてから6か月後には、観察された変化は回復しています。原著研究を読む(Garolla ほか、2013)↗

この研究が示すのは、一定の条件で繰り返したサウナ利用と精液所見の変化です。参加者は10人で、サウナを利用しない比較群はありません。たまに1回入った場合や、もともと精液所見が低い人の場合、実際の妊娠への影響まで同じだとは言えません。

妊娠しやすさまで調べると?

精液検査の数値が変わっても、その変化が妊娠までの時間にどれほど影響するかは別の問いです。McKinnon ほか(2022)の前向き研究は、妊娠を計画していた3,041組のカップルを追跡しました。男性が報告したサウナ利用や膝上でのノートPC利用時間については、妊娠までの時間との明確な関連がほとんど見られませんでした。

一方、熱い風呂・浴槽を月3回以上利用した群では、利用しない群より妊娠の起こりやすさが低い方向の推定値が出ましたが、信頼区間には差がない可能性も含まれました。この研究では曝露を本人の回答で把握しており、個々の陰嚢温度や精液所見を同時に測ったわけではありません。

したがって、熱を気にしなくてよいと断定することも、ノートPCやサウナが必ず妊娠率を下げると断定することもできません。 特に不妊の心配がある場合は、生活習慣だけに原因を決めつけないことが大切です。

研究の数字を自分に当てはめる前に

同じ「熱の研究」でも、測った結果には段階があります。ノートPCの実験は1時間後の皮膚温、サウナの研究は数か月後の精液所見、カップルの研究は妊娠までの時間を調べました。前の段階に変化があっても、次の段階で同じ大きさの変化が起きるとは限りません。妊娠にはパートナー側の要因も関わるためです。

熱の受け方もそろっていません。サウナ実験では温度・時間・頻度を決めていましたが、カップルの研究では普段の利用を本人に尋ねています。「週2回、3か月」と「ときどき利用」を同じ曝露として扱うことはできません。何℃まで、何分までなら安全かという境界を、これらの研究から算出することもできません。

もう一つ大切なのは、精液検査の数値には変動があることです。発熱や体調、採取までの禁欲期間なども結果に影響します。仮に検査結果が基準から外れていても、1回の結果と最近のサウナ利用だけで原因を特定することはできません。気になる結果があるときは、検査条件と必要な再検査について医療機関に相談してください。男性不妊の評価指針を読む(AUA・ASRM)↗

日常ではどう考える?

  • ノートPCを長時間使うなら、机に置く方法が簡単です。膝上パッドだけで温度上昇をなくせるとは考えないでください。
  • 妊娠を考えていて熱が気になるなら、高温のサウナや熱い入浴を頻繁に繰り返す習慣を見直す選択があります。ただし、誰にでも当てはまる「安全な回数・温度」は、この研究からは決められません。
  • 精液検査の結果や妊娠について心配があるなら、泌尿器科や男性不妊を扱う医療機関に相談してください。熱だけでは説明できない原因もあります。

熱への曝露を避けることは避妊法にはなりません。また、必要な仕事や日常生活を過度に怖がる必要もありません。研究で測られた結果と、自分の状況を分けて考えることが出発点です。診察で精索静脈瘤を指摘された場合は、外から受ける熱と同じものとして扱わず、精索静脈瘤の診断と手術を考える条件を確認してください。

精液所見のためにサプリメントも検討しているなら、亜鉛の摂取量と、精子・妊娠への効果を分けて調べた記事もご覧ください。熱と同じく、検査値の変化をそのまま妊娠の結果とみなさないことが大切です。

よくある質問

サウナに一度入っただけで不妊になりますか?

そうした結論を示す研究は、ここで紹介した原著にはありません。精液所見の変化を報告した研究は、週2回の利用を3か月続けた条件です。

膝上パッドを使えば大丈夫ですか?

パッドを使った実験でも陰嚢の皮膚温は上がりました。長時間の作業では机に置くほうが、熱と姿勢の両方を避けやすい方法です。

ノートPCで精子数が減ったと証明されていますか?

紹介したノートPC実験で測ったのは温度です。精子数を測っていないため、その実験から精子数の低下は結論できません。

出典参考資料・文献

本文で参照した資料です。リンクは新しいタブで開きます。

  1. 01Sheynkin ほか(2005)ノートPC使用時の陰嚢皮膚温
  2. 02Sheynkin ほか(2011)姿勢・膝上パッドと陰嚢皮膚温(原著PDF)
  3. 03Garolla ほか(2013)サウナと精子形成
  4. 04Misell ほか(2006)ヒトの精子形成にかかる時間
  5. 05AUA・ASRM(2020)男性不妊の評価指針