妊活中にお酒を1杯飲んだからといって、「精子に傷がついた」「今月は妊娠できない」と考える必要はありません。 男性のたまの1杯が妊娠を妨げると示した研究はありません。一方で、「この量なら精子にも妊娠にも絶対に安全」と決められるデータもありません。大事なのは、昨日の1杯を悔やむことより、普段どれくらいの量を、どのくらいの頻度で飲んでいるかです。

  1. 01飲み方1回の量と、普段の頻度
  2. 02精液所見精子数・形・酸化の指標
  3. 03妊娠カップルの妊娠までの時間

結論:1杯の影響は断定できない。飲まない選択も合理的

男性の飲酒と妊活を調べた研究の多くは、「先月や普段の1週間に何杯飲んだか」を本人に尋ね、精液検査や妊娠までの時間との関係を見ています。ある夜に飲んだ1杯だけを取り出して、その影響を測った研究ではありません。 だから「1杯で不妊になる」とも「毎日1杯なら問題ない」とも言えません。

飲酒を控える理由が欲しい人は、妊活中は飲まないと決めて構いません。少量を時々飲む人が、過去の1杯を理由に妊活の予定を変える必要もありません。判断の中心は、一度きりの出来事より、続いている飲み方です。

「1杯」は何グラム?缶の大きさで変わる

日本の厚生労働省は、お酒の量を比べるときに純アルコール量を見るよう勧めています。計算は「飲んだ量(mL)×度数×0.8」です。例えば5%のビール350mLなら約14g、同じ5%でも500mLなら20g。9%の缶チューハイ350mLなら約25gになります。[1]

研究データ

14gビール350mL・5%
20gビール500mL・5%
25g缶チューハイ350mL・9%

この数字は妊活に安全な上限を示すものではありません。「男性は1日40g」という数字を見かけることもありますが、厚労省が生活習慣病のリスクを考えるために用いる目安で、精子や妊娠に対する安全ラインではありません。海外の研究でいう「1杯」「1単位」も国や研究によって純アルコール量が違います。缶の本数だけで研究結果を自分に当てはめないようにしましょう。

精子の研究では、普段の飲酒量が多い人ほど数値が低い?

デンマークの若い男性1,221人を対象にした研究では、飲酒の仕方と精液所見を調べました。普段の週の飲酒量が多い人ほど、精子濃度、精子の総数、正常な形の精子の割合が低い傾向にあり、とくに多く飲む人で差が目立ちました。習慣的な飲酒量と精子濃度の分析には、典型的な週の飲酒を報告した人のデータが使われています。[2]

ただし、これは一時点で飲酒習慣と精液検査を比べた観察研究です。飲酒以外の生活や健康状態も関わり得ます。「週に何杯以上なら必ず悪くなる」という境界を証明したものではありません。また、この研究では直近1週間の飲酒量と普段の飲酒量で結果が違い、直近の1杯の影響を推定することはできません。

ホルモンも単純ではありません。この研究では、直近の飲酒量が多い人ほど血中の遊離テストステロンが高い傾向さえ見られました。別の集団で報告された多量飲酒によるホルモン低下と一緒にして、「お酒を飲むと必ずテストステロンが下がる」とは説明できません。

妊娠までの時間を調べると、違う結果もある

デンマークと北米の、妊娠を希望する計2,679組を追跡した研究では、男性の飲酒量と妊娠までの時間に、全体として明確な悪化の関係は見られませんでした。研究でいう週1〜5杯の群も、飲まない群より妊娠しにくいという結果ではありませんでした。[3]

精液検査は「精子の状態」を測り、カップルの追跡研究は「妊娠まで」を見ます。結果が違って見えても、どちらかが間違いとは限りません。精液所見の変化がそのまま妊娠率の変化になるわけではなく、妊娠にはパートナー側の要因も関わります。

酸化ストレスは、どこまで分かっている?

お酒の成分であるエタノールは体内で分解され、その過程で酸化と抗酸化のバランスが変わる可能性があります。酸化ストレスとは、細胞を酸化させる物質が増え、体の防御が追いつかない状態のことです。精子の研究では、脂質の酸化を示すMDAや、抗酸化に関わる酵素、精子DNAの傷を調べることがあります。

原因不明の不妊で治療を受けていた男性108人を対象にした研究では、飲酒・喫煙の有無で群を分け、MDAなどを比べました。飲酒のみの群でも酸化関連の指標に違いが見られ、喫煙と飲酒の両方がある群でDNA断片化などの結果が特に悪くなりました。[4]

ここから言えるのは、酸化ストレスが関係するという手がかりがあることまでです。108人の小さな観察研究で、対象は一般の健康な男性ではありません。飲酒量ごとに「1杯でDNAが傷つく」と示したわけでもありません。まして、酸化ストレスを理由に抗酸化サプリを飲めば、お酒の影響を相殺できるという証拠にはなりません。喫煙も気になる人には、紙巻・電子・加熱式たばこと精子DNAの研究を別に整理しています。

妊活中、現実的にはどう決める?

  • 飲まないで過ごせるなら、それが最も迷いの少ない選択です。特定の「安全量」を探す必要がありません。
  • 時々飲むなら、飲む日だけでなく、1回の純アルコール量と1週間の回数を見ます。少量でも毎日の習慣になっていないかを確かめましょう。
  • 毎日飲む、または一度に多く飲むなら、まずその習慣を見直します。研究で影響が出やすいのは、主に習慣的に量が多い飲み方です。
  • 精液検査で異常がある、妊娠まで時間がかかっているなら、飲酒だけを原因と決めず、医療機関に飲酒量も伝えて相談します。睡眠と精子の関係も、同じように生活習慣と検査結果を分けて整理しています。

もし毎日多く飲み、飲まないと手が震える・汗が出るなどの症状があるなら、自己判断で急に断酒せず、医療機関に相談してください。アルコール依存がある人の急な中止は危険な場合があります。[5]

よくある質問

昨日1杯飲みました。今周期は諦めるべきですか?

いいえ。男性が一度1杯飲んだために、その周期の妊娠ができなくなるというデータはありません。気になるなら、これからの飲み方を決めるきっかけにしてください。

妊活のために3か月、完全に禁酒すべきですか?

数か月飲まない選択はできますが、すべての男性に「3か月の禁酒で妊娠率が上がる」と証明されたわけではありません。精子ができるまでには時間がかかりますが、それをそのまま禁酒期間の効果に置き換えることはできません。精液所見や治療予定がある場合は、医療者と方針を決めてください。

ノンアルコール飲料なら大丈夫ですか?

まず表示のアルコール度数を確認してください。0.00%の製品ならエタノールを避ける選択肢になります。ただし、飲料を替えるだけで精液所見が改善するとは言えません。

パートナーが妊娠している場合も、男性と同じ考え方ですか?

いいえ。この記事は妊娠を希望する男性の飲酒を扱っています。妊娠中や授乳中の本人については、厚生労働省の飲酒ガイドラインで飲酒を避けるべき場合として扱われています。男性の研究結果を、そのまま妊娠中の飲酒判断に使わないでください。

出典参考資料・文献

本文で参照した資料です。リンクは新しいタブで開きます。

  1. 01厚生労働省:健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
  2. 02Jensen ほか(2014):習慣的な飲酒と精液所見(原著)
  3. 03Høyer ほか(2020):男性の飲酒と妊娠までの時間(原著)
  4. 04Aboulmaouahib ほか(2018):飲酒・喫煙と精子の酸化ストレス(原著要旨)
  5. 05NHS:アルコール依存と離脱症状の案内