テストステロンの注射や塗り薬で体調が整ってきた。そこで「子どもが欲しい」と思ったとき、薬と妊活は両立できるのでしょうか。血液検査の男性ホルモン値が上がっていても、精子は減っていることがあります。ここが、この治療で最も見落としやすい点です。
テストステロン補充中に妊娠を望むなら、まず処方医にその希望を伝えてください。治療が必要になった理由、妊娠を望む時期、現在の精液所見を確認し、必要なら男性不妊を扱う医師と一緒に計画を立てます。欧州泌尿器科学会(EAU)の2026年版指針も、父親になることを望む男性の不妊治療にテストステロンを使わないよう勧めています。だからといって、この記事を読んで今日から薬を自分でやめる話ではありません。[5]
なぜ、テストステロンを補うと精子が減ることがある?
精子をつくるには、血液中のテストステロンだけでなく、脳の下垂体から精巣へ届くLHとFSHという信号が必要です。LHは精巣内でのテストステロン産生を促し、FSHも精子形成を支えます。日本の男性不妊症診療ガイドラインも、この仕組みとホルモン検査の役割を説明しています。[1]
体の外からテストステロンを投与すると、脳は「もう足りている」と受け取り、LH・FSHの分泌を抑えることがあります。すると血液検査ではテストステロン値が十分でも、精巣内で精子をつくるための環境は弱まる場合があります。精子数が減り、無精子症になる人もいます。数値が高いから精子も多い、とは言えません。[1][2]
- 01外から補う血中テストステロンが上がる
- 02信号が弱まるLH・FSHが抑えられることがある
- 03精子が減る精液検査で初めて分かる場合も
注射、塗り薬など投与方法の違いを自分で選び直せば安全、という話でもありません。妊娠を今または将来望む男性に、AUA・ASRMはテストステロン単独での治療を行わないよう示しています。EAUの2026年版も、父親になりたい男性への補充療法を勧めていません。これは症状を放置するという意味ではなく、妊孕性も含めた別の治療計画を医師と考えるという意味です。[2][5]
すでに補充中なら、妊娠は無理?
いいえ。補充中でも精子が残る人がいますし、治療方針を見直した後に精子形成が回復する人もいます。ただし、補充療法は確実な避妊法ではなく、回復も全員に保証されません。今の状態は、治療歴と精液検査を合わせて確かめる必要があります。[2]
回復にかかる時間を知りたくなるところですが、研究の数字をそのまま予定表に書き込むことはできません。2017年の後ろ向き研究では、テストステロン使用後に不妊を相談した66人が、使用中止に加えて医師の管理下でhCGとSERMという薬を使いました。12か月以内に46人(約70%)が、研究で定めた「総運動精子数500万超」に達しました。これは精液中で動く精子の合計数で、妊娠率ではありません。年齢や使用期間が回復までの時間と関係していました。[4]
この70%は、薬を自分でやめた人の回復率でも、妊娠率でもありません。専門外来を受診した少数の人を振り返った研究で、対象は治療方針を変えた時点で無精子症か、精子がごく少なかった男性です。もとの精子数が分からない人もいます。この数字から「全員が元どおりになる」とは言えません。何か月でどこまで戻るかは、診察と再検査で確かめる必要があります。[4]
治療を始める前に、何を伝える?
これからテストステロン補充を検討しているなら、まだ妊娠を試みていなくても、将来子どもを望む気持ちを処方医に伝えてください。AUA・ASRMは将来の妊孕性も考慮し、Endocrine Societyは近い将来に妊娠を計画している男性への開始を勧めていません。[2][3]
相談では、次の順で確認すると話が具体的になります。
- なぜ治療が必要か。 症状と、適切な条件で測ったテストステロン値を確認したか。LH・FSHなどから原因を調べる必要はあるか。[3]
- 精子の現状を知るか。 治療開始前の精液検査が必要か、結果をどう解釈するか。精液検査の結果の読み方も参考になります。
- いつ父親になりたいか。 今すぐ妊娠を試みるのか、数年後なのか。精子の凍結保存を検討する状況か。
- 別の治療や経過観察はあるか。 もとの病気と症状を管理しながら、妊孕性への影響をどう考えるか。
「低い数字が一度出た」だけで、原因や治療法が一つに決まるわけではありません。診断では症状と繰り返し確認したホルモン値を合わせ、必要に応じてLH・FSHを調べるとEndocrine Societyは示しています。[3]
同じ「テストステロンが低い」でも、精巣そのものに原因がある場合と、精巣へ指令を送る側に原因がある場合では、妊孕性を考えた治療が異なります。後者の一部では、医師がゴナドトロピン製剤などで精子形成を促すことがあります。誰にでも使える代替薬が一つあるわけではありません。自分の低値の原因を聞くことが、治療名を探すより先です。[3][5]
治療中に妊活を始めたい。誰に相談する?
まずは処方医に、妊娠を望むことと希望時期を伝えてください。併せて、男性不妊を診る泌尿器科・生殖医療の専門家への紹介を相談できます。パートナー側の年齢や検査も含めて、二人の時間を考えるためです。受診を迷っているなら、男性不妊の初診と相談の目安もご覧ください。
診察には、処方された製剤名、量、開始時期、最後に使用した時期、ほかの薬やサプリ、過去のホルモン値・精液検査結果が分かるものを持参すると役立ちます。処方薬以外のアナボリックステロイドや「テストステロンを増やす」とうたう製品を使っている場合も、正直に伝えてください。治療の判断に必要な情報です。
医師は原因に応じ、ホルモン検査、精液検査、治療法の変更や別の薬、経過観察などを検討します。AUA・ASRMは低テストステロンを伴う不妊症でhCG、SERM、アロマターゼ阻害薬などを選択肢に挙げていますが、勧告の根拠は限定的です。薬の種類や量をこの記事から決めたり、個人輸入で試したりはしないでください。[2]
精液検査で精子が見つからなかった場合も、それだけで永久に精子をつくれないとは決まりません。同時に、補充療法が唯一の原因だったとも決められません。再検査、ホルモン値、診察から原因を調べ、回復を見守る期間と別の選択肢を相談します。パートナー側の評価も必要なら並行して進めます。[1][2]
今日できること:次の診察で伝える一文を用意する
治療開始前なら「将来、子どもを望んでいます。精子への影響を踏まえた治療を相談したいです」。すでに補充中なら「妊活を始めたいので、今の薬と精液検査について相談したいです」。精液検査で異常を指摘されたなら「補充療法との関係を含めて、男性不妊の専門医にも相談できますか」。この一文を予約時か診察の冒頭で伝えてください。
薬の名前、使い始めた時期、過去の検査結果を手元にまとめておくと、話が早くなります。受診までの間も、処方内容を自己判断で変えないでください。
よくある質問
血液検査でテストステロンが正常なら、精子も正常ですか?
分かりません。外から補ったテストステロンで血中の値が十分でも、精巣へのLH・FSHの信号が抑えられることがあります。精子については精液検査で確認します。[1][2]
薬をやめれば必ず精子が戻りますか?
必ずとは言えません。回復する人はいますが、期間や程度は異なります。先ほどの研究は、医師の管理下で別の薬も使った人の結果です。自己判断の中止に当てはめないでください。[4]
注射を塗り薬に変えれば、精子への影響を避けられますか?
そうは言えません。どちらも体の外からテストステロンを補う治療です。製剤を変えるだけで精子形成が保たれると考えず、妊娠を望む時期と現在の精液所見を処方医に伝えてください。[2][5]
ストレスでテストステロンが下がった話と同じですか?
別の話です。ストレスとテストステロンの記事は、日常のストレス反応とホルモン・精液所見の研究を扱っています。ここで扱うのは、体の外から投与するテストステロンによるホルモン経路への影響です。両者を混同して、ストレスがあっただけで補充療法が必要と考えることはできません。
補充療法中に父親になりたいと思ったなら、その希望を伝えるのに遅すぎると決めつけないでください。治療を受ける理由も、家族を考える気持ちも大切にしながら、今分かることから医師と次の一歩を決められます。
出典参考資料・文献
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