アプリの画面に「排卵予定日」と出た。帰宅が遅くなると、二人とも落ち着かない。「今日を逃したら、また1か月後」。そんなふうに、一日だけに重みが集まっていませんか。

その一日は、確定した排卵日ではありません。そして、妊娠の可能性がある日も一日だけではありません。タイミングを知ることは助けになります。ただ、カレンダーに二人の生活を支配させる必要はないのです。

排卵日は「点」、妊娠しやすい時期は「幅」

妊娠しやすい期間(fertile window)は、排卵日と、その前の5日間を合わせた約6日間として説明されます。米国生殖医学会(ASRM)の見解も、この範囲を妊娠を考えるときの目安にしています。[1]

この根拠の一つは、妊娠を希望する健康な女性221人を追った研究です。参加者は毎日の尿検体と性交の記録を残し、研究者はホルモン代謝物から排卵日を推定しました。排卵時期を推定できた625周期では、妊娠の始まりは推定排卵日までの6日間に性交があった場合に確認されました。これは研究対象の集団での結果であり、個人の「妊娠できる日」を毎月正確に予言する数字ではありません。[2]

排卵日を基準に見た、妊娠しやすい6日間
  1. 5日前妊娠の可能性がある期間の始まり
  2. 4〜3日前一日だけを狙わなくてよい
  3. 2〜1日前妊娠しやすさが高い時期
  4. 排卵日この日だけが正解ではない

これは排卵日が後から分かった場合の相対的な位置です。カレンダー上で次の排卵日を正確に予測できるという意味ではありません。

別の解析を含むASRMの整理では、とくに排卵前の1〜2日が妊娠しやすい時期です。だから、排卵日を待ってから初めて考えるより、その前の数日にも目を向けるほうが理にかなっています。ただし、排卵の前日に性交すれば必ず妊娠する、という意味ではありません。[1]

何日おきがいい?「毎日」にする必要はない

ASRMは、妊娠しやすい期間に1〜2日おきに性交があると妊娠の機会が高いとしています。一方、週2〜3回程度でも近い結果が得られます。研究では、妊娠しやすい期間に一度だけ性交があった場合より、その期間に複数回あった場合のほうが妊娠しやすい傾向が示されています。[1]

ここで「毎日しなければ」と読み替えないでください。仕事、体調、気持ちを無視して回数を増やす必要はありません。反対に、「精子をためるために数日間は性交しないほうがよい」と決めつける根拠もありません。ASRMは、二人が希望する頻度を、この情報の中で決めるよう勧めています。[1]

「禁欲したほうが精子にいいのでは」と気になる人は、禁欲と妊娠しやすさの記事も参考にしてください。精液検査のための禁欲日数と、妊娠を試みるときの性交頻度は、同じ話ではありません。

月経アプリは便利。でも、排卵日を確定する道具ではない

月経アプリは、周期を記録し、二人が予定を話すきっかけになります。一方、月経開始日や平均周期だけから計算するアプリは、排卵日を直接測っていません。周期がいつも同じ長さに見えても、排卵する日はずれます。[1]

月経周期を追った949人のデータと複数のアプリ・カレンダー法を比較した研究では、排卵日を一日単位で当てる精度は、アプリで最大21%でした。この数字は、その研究で調べたアプリと集団についての結果です。現在あるすべてのアプリの精度が21%だ、という意味ではありません。また、研究では尿中LHの上昇を使って排卵の時期を推定しており、排卵を直接観察したわけではありません。[3]

アプリを見るなら、表示された一日を「締め切り」にせず、おおまかな目安として使う。その使い方なら、記録の便利さを残しながら、外れた日の失望を少し減らせます。

排卵検査薬を使ったほうがいい?

尿中の黄体形成ホルモン(LH)の上昇をみる排卵検査薬は、過去の周期だけから計算するカレンダーとは違います。ただ、陽性が出ても、その時点で排卵したと確定するわけではありません。ASRMは、LH上昇の後、排卵までに幅があると説明しています。[1]

では、検査薬は意味がないのか。そうではありません。2023年のコクランレビューは、妊娠を試みて12か月未満の40歳未満の女性を含む試験について、尿の排卵検査薬を使ったタイミング法が、生児出生や妊娠の確率を高める可能性が高いと結論しました。ただし、生児出生の結果は主に1試験844人によるもので、ストレスや生活の質への影響は十分には分かっていません。[4]

二人の予定が合いにくい、周期をもう少し把握したい。そんなときには役立つ選択肢です。毎月の検査が負担なら、使わない選択もできます。どちらが「真剣な妊活」かを決める道具ではありません。

カレンダーが苦しくなったら、計画を軽くする

妊活では、正確さを求めるほど気持ちが楽になるとは限りません。ASRMは、排卵予測と結びついた厳密なスケジュールが、性的な満足感や性交の頻度に負担をかけうると指摘しています。これは「ストレスがあると妊娠できない」という話ではありません。方法そのものが二人に合っているか、見直してよいということです。[1]

例えば、こんな話し方ができます。

  1. 「今月はどこまで知りたい?」 アプリだけ見るのか、検査薬も使うのかを決める。
  2. 「週に何回なら無理がない?」 研究上の目安を、二人の生活に合わせて考える。
  3. 「今日は難しい」と言えるようにする。 一度の予定変更を、誰かの失敗にしない。

睡眠を削って深夜に「今日しかない」と焦るより、二人の体調を守るほうが長く続けやすい。睡眠と精子についてはこちらの記事で、ストレスとホルモンの関係はこちらの記事で、データの限界も含めて整理しています。

予定日を追う前に相談してよい場合

月経周期が不規則、月経が来ない、性交や射精に困難がある、妊娠に影響しうる病気が分かっている。こうした場合は、アプリの予測日を追い続けるより、医療機関で相談するほうが役立つことがあります。ASRMは、原因が疑われる状態では、一定期間を待たずに評価を始めるよう勧めています。[5]

ほかに気になる事情がない場合でも、妊娠を希望する女性が35歳未満なら12か月、35歳以上なら6か月妊娠しないことが評価を始める目安です。40歳を超える場合は、さらに早い相談が適切なことがあります。これは女性側の年齢に関する目安で、男性が35歳になったら6か月に変わるという意味ではありません。二人の検査や受診の話は、いつ相談するかを整理した記事にまとめています。[5]

今日、二人でできる一歩

次の周期の「一日」を先に決めるより、まず5分だけ話してみてください。「予定日を知ると安心する? それとも焦る?」「検査薬は役立ちそう?」「疲れている日は、どう伝える?」。答えが違っても、どちらかが間違っているわけではありません。

これから妊活を始めるなら、男性妊活の最初の一歩から、時期だけでなく健康や受診も含めた全体像を確認できます。妊娠は一日の試験ではありません。二人に合う方法を、途中で変えてもいいのです。

よくある疑問

排卵日を逃したら、その周期はもう無理?

アプリの「排卵予定日」は確定日ではありません。実際の排卵日にはずれがあり、その前の数日にも妊娠の可能性があります。一日外れたと思っても、後からその周期全体を失敗と決めることはできません。[1]

毎日性交したほうがいい?

毎日を義務にする必要はありません。妊娠しやすい期間の1〜2日おきが目安で、週2〜3回程度でも近い結果が得られています。二人が続けられる頻度を選んでください。[1]

排卵検査薬を使わないと妊娠しにくい?

使わなくても妊娠は可能です。検査薬は予定を合わせる助けになり、対象を限った試験では生児出生率の改善が示されています。ただし、すべてのカップルに必要とは言えません。負担と役立ち方を二人で比べてください。[4]

出典参考資料・文献

本文で参照した資料です。リンクは新しいタブで開きます。

  1. 01ASRM(2022):自然妊娠の可能性を高めるための委員会見解
  2. 02Wilcox ほか(1995):性交の時期と妊娠の確率を調べた前向き研究
  3. 03Johnson ほか(2018):月経アプリとカレンダー法による排卵日予測の精度
  4. 04Cochrane(2023):妊娠を希望するカップルの性交タイミングに関する系統的レビュー
  5. 05ASRM(2021):妊娠しない場合に評価を始める時期に関する委員会見解