もっと稼ぎたい。自分の力で何かを築きたい。時間を切り売りするだけで、人生を終えたくない。そう思うなら、お金の本に求めるものを、少し厳しくしたい。読んだ晩に気分が高揚するだけでは足りません。翌朝、自分が何を調べ、何を作り、何をやめるのかまで変わる本を選ぶ。

ここで取り上げるのは、スティーブン・A・シュワルツマンの『What It Takes』、M・J・デマルコの『The Millionaire Fastlane』、そしてロバート・キヨサキの『Rich Dad Poor Dad』、日本で知られる『金持ち父さん 貧乏父さん』です。最初の二冊は、事業を考えるために勧めたい。三冊目は、説得力のある言葉を、そのまま判断の基準にしてよいのかを確かめるための反例として扱います。

私が知りたいのは、成功者の生活をどう真似するかではありません。自分の限られた時間を、何に使えば力が育ち、その力が誰かの役に立ち、結果として収入になるのか。まだ答えのない自分の課題に、本をぶつけて読む。この記事も、そのための読書です。

稼ぐ力と、豊かに見せる力を混同しない

高価な時計、車、旅先の写真。豊かさには、目に見える記号があります。しかし、写真に写らないものもある。毎月の支払い、売上の変動、返済の期限、手元に残る現金。その人が自由なのか、見栄を維持するために追われているのかは、外からでは分かりません。

お金の本を読むときも同じです。著者が堂々と話すことと、その主張が正しいことは別に確かめる必要がある。大きな会社を作った経験には学べるものがある。しかし、その人の人生が成功したという事実だけで、すべての助言が自分にも適用できるとは言えません。

お金について強くなるとは、大きな数字を口にできることより、その数字の中身を説明できることです。何を持っているのか。何を返さなければならないのか。何が残るのか。ここから目をそらさずに読めば、景気のよい言葉に引っ張られにくくなります。

シュワルツマンから学ぶ、引き受ける課題の大きさ

『What It Takes』は、シュワルツマンが自分の歩みと判断を語る本です。私がこの本を事業の読書として選ぶ理由は、努力の量だけでなく、努力を投じる対象を考えられるからです。忙しいことと、大きな結果につながることを、分けて見たい。

この姿勢は、2019年12月10日に公開されたGoldman Sachsの本人インタビューにも表れています。Blackstoneを築く方針として、小さな案件を見送り、大きな案件に取り組むことを語り、他の人が持っていない知識を作る重要性にも触れている。規模を狙うことと、判断の材料を持つことが、並んでいます。

自分が何年も費やすなら、その努力がどこまで届き得るかを、選ぶ段階で問う。始める大きさと、育つ可能性は別に考えられます。最初の検証は小さくても、同じ解決策を多くの人へ届けられるかを見ておく。

一人の依頼に応えるだけで毎回すべてを作り直すのか。共通する困りごとを見つけ、一度磨いた解決策を別の人にも届けられるのか。後者にも準備と修正は要ります。しかし、経験が次の提供に残るなら、毎回ゼロから登り直す仕事とは違う道が開けます。

私たちは、やると決めた後には努力を評価します。その前の「なぜこれを選んだのか」は、案外問い直さない。引き受けたから続ける。始めたから増やす。そこで一度止まりたい。この課題に、時間を渡し続けるだけの理由があるか。その問いは、野心を持つ人ほど必要です。

大きく考えることと、大きく賭けること

規模の大きな事業に憧れると、最初の行動まで大きくしたくなる。立派な名前を付ける。大量に仕入れる。広い場所を借りる。外から見て、もう成功しているような姿を用意する。けれど、誰が何のために買うのかが曖昧なままなら、増えたのは可能性より支払いです。

小さく試すことを、小さな野心だと思わない。十人の困りごとを聞き、そのうち何人が実際に代金を払うか確かめる。百個を売る計画の前に、一個がなぜ選ばれたかを調べる。これは遠慮ではありません。次の判断に使える事実を、自分で取りに行く行動です。

また、伸びる事業ほど追加の責任も生まれます。品質を保つ。約束の日に届ける。不具合に対応する。人を増やす。規模が広がれば、影響を受ける人も増える。売上の増加だけを夢に描き、その責任を後回しにすれば、事業の大きさが自分の未熟さを広げてしまう。

デマルコから学ぶ、努力が残る仕組み

『The Millionaire Fastlane』で考えたいのは、稼ぐための構造です。デマルコはCENTSという五つの観点を示しています。Control、Entry、Need、Scale、Time。事業を自分でどこまで動かせるか、参入の条件は何か、誰の需要に応えるか、どこまで広げられるか、自分の時間と収入がどう結びつくか。著者自身の解説でも、この枠組みと、顧客に価値を届けることを重視しています。[1]

以下は、この五つを私たちが事業案に使うための問いに直したものです。本の用語を覚えるより、自分の案がどこで止まりそうかを見つけたい。

観点自分の案に対して確かめること
Control:主導権価格、届け方、顧客との連絡を、誰が決められるか。外部サービスの変更で何が失われるか。
Entry:参入の条件他の人が簡単に同じものを出せるなら、選ばれ続ける理由を何で作るか。
Need:需要誰が、どんな場面で困っているか。その人は今、何にお金を払っているか。
Scale:拡張性利用者が増えると、作業や費用も同じ割合で増えるか。品質を保って広げられるか。
Time:時間との関係自分が手を止めたとき、すべての提供も止まるか。人や仕組みに渡せる部分はあるか。

五つの問いに答えたら、顧客に確かめる。机の上で整った説明が、実際に買ってもらえる理由になっているかを見る。CENTSは、その検証の前に見落としを探す道具として使いたい。

自分が毎回一時間かけて説明する内容を、分かりやすい案内にまとめる。発送の手順を、他の人にも再現できるようにする。よくある質問を調べ、商品自体の使いにくさを直す。こうした変更には、自分が動いた時間を、その日の売上だけで終わらせない意味があります。

仕組みという言葉を、人への無関心に使わないことも大切です。問い合わせに誰も答えないまま「自動化しました」と言っても、相手には不便が残る。自分が楽になるかに加え、相手が安心して使えるかを確かめる。任せるためには、責任の所在まで設計する必要があります。

売上より先に、残るものを見る

仕組みを考える練習として、数字を一つ置いてみます。これは架空の商品例です。売値が五千円、仕入れと配送、決済に三千五百円かかる。差額は千五百円。さらに一件を売るための広告費が千二百円なら、差額は三百円になります。

その三百円から、返品への対応、保管、道具やサービスの利用料、自分の作業時間なども賄わなければならない。税金の扱いも別に確認する必要がある。この例の三百円は、最終的な利益ではありません。「売れた」という喜びの後に、どこまで数字を追うかが問われます。

一件ごとに赤字なら、件数を増やすほど状況が悪くなる場合がある。逆に、一件では採算が合っていても、仕入れ代金を先に払い、売上の入金を後で受けるなら、途中で現金が足りなくなることがある。利益の見通しと、支払いに使える現金は、分けて確認したい。

「売上を十倍にする」という目標には迫力があります。しかし、そのとき返品は何件になるか。発送は何時間かかるか。先に必要な資金はいくらか。十倍にする前に、十倍になった状態を計算する。大きな目標に対して数字が細かくなるのは、弱気になったからではありません。目標を現実の仕事として扱い始めたからです。

二冊を勧めるからこそ、成功の保証にはしない

シュワルツマンとデマルコを並べると、課題の選び方と、提供の仕組みを一緒に考えられます。どこまで届く課題なのか。誰に何を渡すのか。そのために必要な技能、資金、時間は何か。この接続に、二冊を読む意味があります。

ただし、成功者が自分の経験を振り返る本には、語り手が成功したという条件があります。同じ考え方を使っても、うまくいかなかった人の経験は、その本だけでは見渡せない。本人が重視する要因と、結果に影響したすべての要因も、必ずしも一致しません。

だから、感銘を受けた助言にも条件を付けたい。どんな市場での話か。どんな経験や資金がある人の判断か。今の日本で試すなら、何を改めて確認するか。外国での事例に登場する税制や契約を、そのまま日本の行動に移さない。読書から得た発想と、実行に必要な確認を分ける。

野心は持ちたい。同時に、現実からの返事を聞ける人でいたい。反応が悪いときに客を責める。売れない理由を全部、世間の理解不足にする。そうなれば、学べる材料を自分で捨ててしまう。自分の案を守る力と、自分の案を直す力の両方が必要です。

キヨサキの問題は、資産と負債を単純化すること

『金持ち父さん 貧乏父さん』を、ここでは推薦する本の列に入れません。批判したいのは、読みやすい二分法が、そのまま実際の判断に使えるように見えることです。人物への好き嫌いより、どの説明で何を取り違えるかを見ます。

Rich Dadの公式FAQは、ポケットにお金を入れるものを資産、出していくものを負債と説明し、収入を生まない持ち家を負債に分類します。また、請求や費用を払う前に投資のための資金を取り分ける考え方も示しています。ここで問題にするのは、確認できるこの二つの説明です。[2]

まず、会計でいう資産と負債は、毎月の現金の出入りそのものではありません。IFRSの概念フレームワーク第4章では、資産は過去の事象の結果として企業が支配する現在の経済的資源、負債は過去の事象の結果として企業が経済的資源を移転する現在の義務と定義されます。家計を考える際にも、所有する住宅と住宅ローンの返済義務を区別することは重要です。維持費が出ていくから、家そのものが会計上の負債になるわけではない。

この違いは、細かい用語の揚げ足取りではありません。今いくらの価値を持っているかと、今月いくら現金が残るかは、別の質問だからです。片方だけで状況を説明すると、必要な判断を見落とす。生活の負担が大きい住宅を買えば苦しくなる。しかし、その問題を正確に説明するには、価格、借入、維持費、収入、住む目的を分けて見る必要がある。

持ち家の判断には、代わりに払う家賃もあります。どれくらい住むか、移動する可能性はあるか、修繕費に備えられるか。家を買えば正しい、借りれば正しいという一律の答えは出せない。「資産か負債か」というラベルに決めてもらうと、自分の条件を調べる仕事が抜け落ちます。

賃料が入る物件も、入金があるだけで安心できません。購入価格、空室、修繕、金利、売るときの費用を考えれば、毎月入金があることと、全体として良い結果になることは違う。名前を付けたことで、計算を終えた気にならない。ここが、この本を反例として読む理由です。

「良い借金」という言葉で、返済の条件は消えない

同じ公式FAQでは、収入を生む借入を良い借金として説明しています。しかし、収入を生む目的で借りたことと、最後まで返せることは別です。目的に良い名前を付けても、返済期限や金利、担保、保証の条件は、その名前に合わせて優しくなりません。

不動産を買い、賃料で返済する計画を立てる。入居者がいる間の計算は成立していても、空室の期間にはどうするか。修繕が重なったら、何を使って払うか。変動金利なら、金利が上がった場合の支払いをどう見積もるか。借入を使うなら、うまくいった場合に加えて、崩れた場合の計算をする必要があります。

著者の借入額だけを批判の根拠にはしません。資産や返済義務の範囲が分からなければ、その数字だけでは成功とも失敗とも判断できない。ここでは、本人が公表している説明の何が不足しているかを問います。

問うべきなのは、自分が借りる契約です。個人にも返済の義務が及ぶか。何を失う可能性があるか。売上が落ちても何か月持つか。家族の生活資金と事業の資金をどう分けるか。答えられないまま「金持ちは借金を使う」とだけ覚えても、使える知識にはなりません。

投資に回すお金を先に確保する説明も、支払い義務を後回しにする行動とは区別する必要があります。期限のある支払いを放置して生まれる不利益が、投資で必ず埋まるわけではない。自分を追い込めば解決策が出る、という期待に、生活を預けない。資金を振り分けるなら、既に引き受けた義務と、失ってよい範囲を先に把握する。

厳しく読むのは、挑戦をやめるためではありません。借り物の自信で、自分が理解していない危険を引き受けないためです。責任を取るのは、読んだ著者ではなく、契約に自分の名前を書いた本人です。

読んだ後に、一つの事業案を現実へ出す

二冊を読み終えたら、勧める本の数を増やす前に、自分の案を一つ選びたい。まだ立派な計画書は要りません。ただ、次の五つには、曖昧な言葉を使わずに答える。

  1. 誰が、どんな場面で困っているのか。その人は今どう解決しているのか。
  2. 自分は何を提供し、なぜ既存の方法より選ばれるのか。
  3. 一件を届けるために、いくらの費用と何時間の作業が必要か。
  4. 利用者が増えたとき、どこが止まるのか。改善できる部分はどこか。
  5. 最初の検証にいくらまで使い、どんな結果なら続け、どんな結果なら直すのか。

「すべての男性」「健康に関心がある人」では、相手の顔がまだ見えません。どんな生活を送り、どこで困り、何と比較して選ぶ人なのか。自分が扱いたい商品から相手を想像するだけでなく、相手の生活を知って、必要な提供を考える。その順番を試してみる。

たとえば、移動が多く、荷物の整理に時間を取られる人を対象にするなら、実際に何を持ち歩き、何に不便を感じているかを聞く。先に大量の在庫を持つより、少量の試作や提供で確かめる。「買うかもしれない」という返事を、確定した需要として数えない。

検証には期限も付けます。いつまでに話を聞くか。いつまでに見せるものを作るか。結果を見て、何を決めるか。期限がなければ、調べることは、出さない理由にもなります。逆に、続ける条件がなければ、既に使ったお金が惜しくて、合わない案に追加で時間を渡し続けることになる。

お金を、選んだ人生に使える力へ

お金があれば、選べることは増えます。学びに時間を使う。大切な人を支える。合わない条件から離れる。作りたいものに資金を渡す。そのために稼ぐ力を育てたいという願いを、恥じる必要はありません。

しかし、金額が増えれば、何を望むかまで決まるわけではない。周囲に勝ちたい気持ちだけで走れば、比較する相手が変わるたびに足りなくなる。増やす数字と、守りたい生活を、自分の言葉で持っておきたい。

シュワルツマンからは、どの課題に力を投じるかを問う。デマルコからは、その力がどう価値と仕組みに残るかを考える。キヨサキを読む際には、気持ちのよい説明が何を省いているかを確かめる。推薦する本にも、批判する本にも、自分の判断を預けない。

どの本を読んでも、お金そのものは生き方を決めてくれません。最後は、限りある人生を何に使うかを自分で選ぶことになります。

読み終えた本を、本棚の中だけで働かせない。一つの事業案に使い、顧客の返事と費用を確かめる。規模を望むなら、まずその案が誰かに役立った事実を作る。次に広げるかどうかは、その事実と数字から判断します。

出典参考資料・文献

本文で参照した資料です。リンクは新しいタブで開きます。

  1. 01M. J. デマルコ:CENTSと事業の価値について、著者自身による解説
  2. 02Rich Dad公式FAQ:資産と負債、借入、支払いに関する主張